アート展では、「織りと気配」をテーマにテキスタイルからインスピレーションを得てつくられた作品や、富士吉田の機屋との共創によって生まれた作品を展示します。柔らかく、風でなびき、あるいは事物の表目に沿って不定形の形状をえがく織物。この展示を通して、「堅固な形状を半永久的に維持するはずの彫刻」という概念に対極の、不定形で、しなやかに変化し、ゆらぐ彫刻の可能性を追求します。

「機屋協力プロジェクト」

アート展示の1プログラムとして、アーティストと機屋が共同で作品制作を行います。織物の町、富士吉田市だからこそ実現した本プロジェクトを通して、テキスタイルとアートの役割や機能を問い、新たな可能性を探ります。

“織りと気配”

富士吉田市は 近代以後、テキスタイル産業が重要な第三次産業の経済基盤となってきた町です。それは、富士山から流れ落ちる清涼な渓流の水を使うことによって可能となってもので、この産業の成り立ちが町の自然環境と密接に結びついていたことがわかるでしょう。

そこで今回町の重要な経済基盤であるテキスタイル産業に注目し、「Textile & Art 展」を開催するはこびとなりました。デザイナー、アーティスト、建築家などのクリエイターにテキスタイルをテーマとした作品を提案、制作してもらい、これを街の中に散在する古い建物に展示する、ユニークな展覧会を開催します。制作される作品は多くが古屋の空間と対話を生み出す「サイトスペシフィック」な作品となり、街の歴史や環境を読み直す良い機会となるでしょう。
作品は予想外の素材や形で観客を驚かせ、また柔軟で彩りにあふれた姿でたたずむでしょう。テキスタイルを廻って想起されるさまざまなインスピレーションが、まるで風にそよぐ一枚の織物のように、軽やかにその気配を感じさせます。

制作にあたっては地元の人々との交流を通じて多様性社会の姿を探ることも期待されます。結果として、このイベントに参加した人たちによって交流人口、滞在人口が増加することも期待したいと思います。一方で新型コロナウイルスに対する感染対策も必要な折から、多数の観客の来訪を目的とするのでなく、ゆったりと鑑賞できる環境を作り、地域の人々にも参加を促し、アートを通じてテキスタイルについて考える新たな機会としたいと思います。
そしてこのイベントが、テキスタイル産業の活性化に貢献すると共に、文化観光の新しい可能性として将来にも育っていくことを期待したいと思います。

南條史生(ディレクター)

慶應義塾大学経済学部(1972年)、および文学部哲学科美学美術史学専攻(1977年)卒業。国際交流基金(1978~1986年)等を経て、2002年より森美術館副館長、2006年11月から2019年まで館長をつとめる。2020年1月より特別顧問。過去に、ヴェニス・ビエンナーレ日本館(1997年)および台北ビエンナーレ(1998年)のコミッショナー、ターナー・プライズ審査委員(ロンドン、1998年)、横浜トリエンナーレ(2001年)、シンガポール・ビエンナーレ(2006年/2008年)アーティスィック・ディレクター、茨城県北芸術祭(2016年)総合ディレクター、ホノルル・ビエンナーレ(2017年)キュラトリアル・ディレクター、北九州未来創造芸術祭-ART for SDGs-(2021年)ディレクター等を歴任。森美術館にて自ら企画者として携わった近年の企画展に「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命―人は明日どう生きるのか」(2019~20年)がある。著書に「疾走するアジア―現代美術の今を見る」(美術年鑑社、2010年)、「アートを生きる」(角川書店、2012年)等がある。ICOM(国際博物館会議)及びAICA(国際美術評論家連盟)会員。

沓名美和(キュレーター)

多摩美術大学客員教授、魯迅美術学院現代美術学科教授、清華大学日本研究所訪問学者、REBIRTH ASIA代表、ボアオ文化産業フォーラム日本理事。
多摩美術大学を卒業後、韓国弘益大学で大学院に進学。その後、中国清華大学にて博士号を取得。現在は清華大学日本研究所にて東アジア文化芸術の専門家として外交行事にも携わる。2021年中国の最大の文化会議ボアオ文化産業フォーラムでは日本理事となり、中国の現代美術をメインとした市場やアカデミック等の現状を分析しまとめ、日中の文化産業がどのように関わっていくべきかなど、講演をしたり、企業向けにアドバイザーとしても関わっている。2020年から中国に日本の現代美術、アーティストを紹介するSNSの番組、日本芸術情報網JAIの代表理事とモデレーターも務める。
また、中国魯迅美術学院にて中国の美大にて初めて「ものを作らないことに引き込む」という環境に配慮した研究室を立ち上げ教えている。