/ Atsushi Aizawa

展示会場
(01)旧山叶
《How The Wilderness Thinks》2025
《How The Wilderness Thinks》2025
About Works
[キュラトリアル・コメント]

相澤安嗣志は、幼少期を里山で過ごした経験から「自然と人間が交わる境界領域」に関心を抱き、銑鉄や工業的素材といった人工物と向き合いながら、素材が時間とともに自然へ還元されていく過程を捉える制作を続けてきた。本作は、絹という素材とその産業について相澤が2024年から行ってきたリサーチを基点に制作された、大型インスタレーションである。
かつて絹の生産で栄えた富士吉田で集められた膨大なデッドストックの絹生地を、長さを変えて空間に吊るすことで立ち上がる本作は、洞窟のような構造をつくり、人々をその内部へと招き入れる。地元の染色工場の協力により先端が手染めされた800枚以上の布は、富士山の稜線を思わせるように配置されている。相澤は、富士山の溶岩が木々を包み込み、木が燃え尽きた後に残る樹形の洞穴を巡って身を清め、生まれ変わりを願った富士講の「胎内巡り」を、本作で意識したと語る。
富士吉田という土地では、富士山の野性と、それに呼応してきた人びとの暮らしや営み、織物文化が重層的に場所性を形づくってきた。相澤の作品は、そうした幾重にも折り重なる時間のレイヤーが、この町の未来へと再び生まれ変わる契機となることを、示唆しているようである。

[アーティスト・ステートメント]

富士吉田で集められた膨大な数のデッドストックの布が吊るされ、下方先端は染色されている。布の長さを変えることで、その差が洞窟のように設計され、染色された箇所はレイヤーがモワレのように重なり、複雑な色合いを見せる。それは山の稜線が描かれているようで、鑑賞者はその稜線の中を歩く。
この歩む体験は、鑑賞者に布の軽やかさや風合いを浴びせ、繭の中にいるように心理的安心感を与える。さらに、富士講信者が富士登拝の前日に胎内樹型(溶岩が流れ出た際、樹木を取り込みながら固まり、その後に中の樹木が燃えつき朽ちて樹型の空洞が残った)の洞内を巡り、身を清め、生まれ変わりを経験する信仰行為である胎内巡りを模している。
富士吉田は1万年以上前から人が暮らしており、幾度もの富士山の噴火を乗り越え、富士講たちの信仰や、湧水や雪代、溶岩台地が土壌となり人々の暮らしや文化が形成されてきた。
絹が日本に伝わって約2000年になるが、日本の気候風土が絹の生産に適していたこと、絹の美しさや風合いが日本人の感性や美意識、皮膚の感覚に合致したことなどのために独自の発展を遂げた。富士吉田でも気候風土が合致し絹文化が発展することにより甲斐絹などが生まれ、富士山信仰とも結びつき、さらには養蚕守護として富士山の神である木花開耶姫命(このはなのさくやひめ)が祀られる。そして、富士山の清らかな湧水は、染色や洗浄に適しており、古くから機織りの町として栄えてきた。
富士山の圧倒的ダイナミズムの野性が基盤となり、そこに人が持つ理性が融合し文化がつくられてきたことにより、それが富士吉田の地域性となった。富士山を中心として人々の暮らしが歴史とともにグラデーションのように広がり、富士山の標高から人の生活圏内までは様々な領域がレイヤーとして存在している。
私は幼少期を里山で過ごし、自然の営みに沿って生活した経験が、富士吉田の変遷や生活に共鳴し、富士吉田で培われてきた織物や歴史を遺産としてではなく、未来へと紡ぐ物語のツールとして捉え、自然と人間の交わる境界領域を考察する。
Artist Profile
相澤 安嗣志 / Atsushi Aizawa

相澤 安嗣志 / Atsushi Aizawa

1991年神奈川県生まれ。2011年多摩美術大学美術学部絵画学科日本画専攻入学、2015年多摩美術大学美術学部情報デザイン学科メディア芸術コース卒業。
幼少期を里山で過ごした経験から、自然と人間が交わる境界領域や文明の廃棄物が混在する空間などに関心を持つ。身体と事物、空間との相互関係をテーマに、モノと人間との関係性や境界領域を反映させた多様な実践をしている。主な展覧会に「境界のマチエール」(Yuvan、2024)、「Centre - Empty」(両足院、2022)、「The Discoveries from A Certain Fable」(コートヤード広尾、2019)、「No Man's Land」(KANA KAWANISHI GALLERY、2017)など。