/ Haruto Kamijo

展示会場
(15)FUJIHIMURO
《forming patterns》2025
《forming patterns》2025
About Works
[キュラトリアル・コメント]

本作は、富士吉田の老舗織物工場・槙田商店と共同開発した、立体的に変形するジャカード織のテキスタイルを用いたインスタレーションである。アーモンド型の同心円状の模様が連なる生地は、縫製や加工ではなく、織組織そのものの伸縮差によって立体的に立ち上がる仕組みになっている。上條はその特性を活かし、富士山の形をひとつの造形フォーマットに捉え、視点の移動によって内側と外側、山の“裏”と“表”が反転する空間を構成した。
鑑賞者は中央に敷かれたカーペットの上で身を屈めて布の筒をくぐるようにして内部へ入る。頭上には逆さにそびえる山の光景が現れ、異なる気圏へ移動したような感覚をもたらす。また、空間を回り込んで外側から眺めると、内部で見た布の“陰影”が反転し、柔らかく漏れ出る光として、浮かび上がる。布がひとつの境界膜となり、一空間に複数の視点を併存させているのも本作の特徴である。
上條は本作の着想にあたり、版画家ギュスターヴ・ドレによる『神曲』挿絵の「至高天」を参照したという。ダンテが旅の最終地点として目指す「至高天」は、天国篇の最奥部に位置し、神の光に包まれた世界の根源を象徴する場所である。本作の布の膜をくぐった先に立ち上がる光景は、その高みに向かう視線の運動を想起させ、富士山が古くから「天国に最も近い場所」と考えられてきた信仰とも響き合う。
富士吉田でのリサーチから得た山脈や自然物の形態的イメージ、そしてテキスタイルの物理的特性が結びつくことで、本作は「山を見る」という行為そのものを、光と布と身体の移動によって再構築している。

[アーティスト・ステートメント]

手元にあるジャカード織のテキスタイルを引っ張ったり曲げたりしながら、様々な角度から観察して、それが生み出す効果を考えた。その布はアーモンド型の同心円状の模様が連なり、花弁がひらひらとするように成長することと丁度同じ原理によってひらひらと立体化している。また、白い布は強く光を当てると、一方へは硬い反射光を、他方へは柔らかな透過光を返す。
布に光を当てた時の二面的な効果から、展示室に入って、まず硬い光に緊張感を覚えて、それから柔らかい光に包まれるというシークエンスが生まれた。光に包まれた状態を生み出すために布を筒状にすることが決まり、布の伸縮性を生かして上下端を引っ張って部屋全体へ伸びるように固定することになった。2 枚の枠の間に張られたシャボン膜と同様に、布の筒は中央部がすぼまっている。この細くなった部分を目線の高さに合わせたために下端は地面へ接近し、中へ入る人は身を屈めて布をくぐることになる。光は布の筒の側面から当てられ、光に包まれた筒の内部とのコントラストのために、氷室の高い天井は暗闇のまま残された。
以上のプロセスは、観念的なイメージを布という素材で表現するのではなく、素材を状況との関係において組織するようなやり方である。もし出来上がったものから、その外形に富士山を、そのシークエンスに胎内巡りを、そのひだの連なりに雲海や伏流水の流れを、そのアーモンド型のひだに女性器を、その花弁に囲まれるような光の体験にダンテの描く至高天を見出したとしても、それはやはり幻視にすぎず、その幻視の作用こそ、人間が獲得した想像力の起源を追体験するものである。
Artist Profile
上條 陽斗 / Haruto Kamijo

上條 陽斗 / Haruto Kamijo

2000年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士後期課程在籍。動的なプロセスを伴う製造手法から生まれる形態に関心をもち、コンピューテーショナル・ファブリケーションの研究と並行して、立体的に変形するテキスタイルを用いた作品を展開している。2024年度未踏IT人材発掘・育成事業に採択され、富士吉田を拠点にジャカード織機による制作を開始。個展に「forming patterns」(TIERS GALLERY、東京、2025)。主なグループ展に「gyroid resonance」(スパイラルガーデン、東京、2025)、「つながるかたち展03」(駒場博物館、東京、2023)など。