/ Hanna Saito

展示会場
(01)旧山叶
《織目に沿ったり逸れたりしながら流れる》2025
《織目に沿ったり逸れたりしながら流れる》2025
About Works
[キュラトリアル・コメント]

かつてガラス材の倉庫として使われていた工場跡の中央にローリングタワーが立ち、その頂部には会場裏を流れる間堀川から汲み上げた水が貯められている。水は複数の絹の反物を伝い、山の稜線のような曲線を描きながら、床に設置された雨漏れ対策に使われていた器に落ちていく。反物には粘菌が植え付けられ、水がつくる微細な水脈に沿って移動しつつ、色素を含んだ餌を摂取し、軌跡を残していく。
原生生物に分類される粘菌は気温や湿度によって動きを変化し、寒い日には停滞し、温かい場所では活発になる。工場内に置かれた石油ストーブは局所的な温度差を生み、人が暖を求め近づくように、粘菌も熱源へ引き寄せられる。富士山の湧水が裾野に無数の水脈をつくり、その流れに沿って人々の暮らしが形成されてきたように、町を支える川の水が、ここではミクロのスケールで粘菌の生存環境をかたちづくっている。反物の織り目は地形の起伏のように働き、粘菌はそこに独自のルートを見いだしながら進む。富士山麓という厳しい地勢の中で人々が営みを築いてきた歴史を思わせるように、鑑賞者は反物の上に現れる粘菌の軌跡を会期中、観察することになる。
実は会期前の数日、齋藤は粘菌を管理し観察するために寝具を持ち込み、ときには0度を下回る厳しい寒さの中、工場で粘菌と生活を共にしたという。その時間の蓄積は布の上の痕として表れ、寒さに耐えながら移動する小さな生き物の軌跡は、作家が制作期間中過ごした日々とも重なり、この土地で長く続いてきた生存と営みのリズムを重ねて見るための手がかりとなっている。

[アーティスト・ステートメント]

織り柄の入った絹の反物に、粘菌の変形体が植え付けられている。粘菌は色素を含んだエサを摂取しながら移動し、その排出物は反物の上に軌跡として残されていく。変形体は流体の性質をもち、川が地形に沿いながらときに溢れ出て分岐するように、織り目や織り柄に沿うこともあれば、そこから逸れていくこともある。粘菌の動きによる紋様は、布と粘菌のあいだに生じる相互作用を、時間の経過とともに可視化していく。
Artist Profile
齋藤 帆奈 / Hanna Saito

齋藤 帆奈 / Hanna Saito

1988年生まれ。東京と山梨を拠点に活動。現代美術作家。多摩美術大学工芸学科ガラスコース卒業後、metaPhorest (biological/biomedia art platform) に参加し、バイオアート領域で活動を開始。2025年度より東洋大学総合情報学部助教。東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍(筧康明研究室)。理化学ガラスの制作技法を活かしたガラス造形や、生物・有機物・画像解析を用いた作品制作・研究を行う。近年は複数種の野生粘菌を採取・培養し、制作・実験に活用している。北杜市の拠点では古民家を改装し、バイオアートラボを構築している。主なテーマは、自然/社会、人間/非人間の境界の再考と、表現者と表現対象の不可分性。