/ Mao Shibata

展示会場
(14)下吉田第一小学校プール(みずほ公園隣り)
《Blue Lotus》2025
《Blue Lotus》2025
About Works
[キュラトリアル・コメント]

かつて小学校のプールとして使われていた本会場には、その時代の痕跡が随所に残り、薄く水が張られたプールからは、富士吉田・明見湖の蓮池を参照した青い布の造形が立ち上がる。プールサイドには複数のモニターが並び、空間各所のカメラが会場の様子をリアルタイムで映し出す。当時のまま残る監視台や救命器具には、視線によって安全が保たれていた場の性質が現在も刻まれている。
柴田はこれまでもクロマキー合成技術を用い、青色の彫刻が映像上では“消える”仕組みを取り入れ、真像と虚像、実在と不在の境界、さらに「見る/見られる」の関係性を主題としてきた。本作で鑑賞者が長靴で踏み入れる「蓮池」では、青い布がカメラの視界を遮り、鑑賞者は蓮の下に潜む生物のように画面上から“姿を消す”。その一方で、監視台が担っていた安全性は、そこで失われたままの状態となる。
こうした構造は、「見る/見られる」の二項対立を「狙われる/守られる」という別の関係へと広げ、鑑賞者に状況判断を委ねている。近年、AI技術の進展や自動ドローンをはじめとする新たな監視・兵器技術の普及により、プライバシーと安全をめぐる議論が高まっている。AIカモフラージュ用の布の開発など、テキスタイルが監視の領域に接続される事例も増える中、本作は可視性と保護、存在と消失のあいだに生まれる関係性を照らし出している。

[アーティスト・ステートメント]

Covid-19のパンデミック以降、身体を介した直接的な関係が制限され、私たちはスクリーンを通した間接的な世界を生きるようになった。この変化は、物理的な距離だけでなく、精神的・感覚的な距離にも影響を及ぼし、現実と虚像、存在と不在の境界を曖昧にしている。そのあわいに生まれる「つながり」や「隔たり」を、彫刻というフィジカルな行為と、デジタルのレイヤーを重ねながら探り、情報化社会における人と人との関係性や距離感、そしてそのあいだに生まれるコミュニケーションの構造を主題としてきた。
本作は、その探求の延長線上にあり、富士山の麓・富士吉田という土地の歴史と記憶を重ね合わせた作品である。この地は、富士山の湧水を源とする豊かな水に恵まれ、古くから織物産業が栄えてきた。また、富士山信仰の玄関口として、人々の祈りや生活が自然と結びついてきた場所でもある。本作では、そうした「水」と「布」の記憶、そして信仰に宿る精神性を手がかりに、現代における可視/不可視の関係を問い直している。モチーフである蓮は、富士吉田の明見湖(はす池)を起点としている。泥の底に根を張り、水面に清らかな花を咲かせるその姿は、「不浄と清浄」「現実と虚像」「内と外」を媒介する象徴として古くから語られてきた。その構造は、現実と非現実を往還する本作の空間構成とも響き合っている。
会場となる屋内プールには、薄く水が張られ、その水面上に、アルミニウムで成形された青の蓮葉と、青の布のヴェール、そしてそれらを映し出す映像が重層的に配置される。会場に設置された青い蓮たちは、ブルーバックを用いたクロマキー合成によって、カメラの前を通り過ぎる人々とともに映像としてモニターに映し出される。画面上ではその「青」は抜け落ち、現実とは異なるもうひとつの姿が現れる。だが、実際の空間には確かにその“形”が存在し、会場を訪れた者だけがその実体を体験することができる。
また、鑑賞者は水面に足を踏み入れ、反射や波紋を通して空間に干渉し、光と映像の揺らぎのなかで自らの存在を感覚的に捉える。その行為によって空間は絶えず変化し、現実の光景とスクリーン上の像、実体と虚像が重なり合いながら現前する。
そこで生じる“ズレ”や“欠落”こそが、この作品の中心的な構造である。
《Blue Lotus》は、光と水、物質と映像が交差する場において、“見ること”と“存在すること”の関係を再考する試みである。
蓮が泥から光へと伸びていくように、現実と虚像、身体とデータ、記憶と現在のあいだに生まれる「現代のかたち」を静かに描き出している。
Artist Profile
柴田 まお / Mao Shibata

柴田 まお / Mao Shibata

1998年神奈川県生まれ。2022年多摩美術大学美術学部彫刻学科卒業。2024年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。現代で多様化する人と人の繋がりから生まれる「コミュニケーションの在り方」をテーマに、彫刻やインスタレーションを発表する。 昨今の制作では、彫刻というフィジカルな表現を軸に、現代の情報化社会の象徴であるデジタルな表現を掛け合わせることで、現実(リアル)と虚像(フェイク)の境目を曖昧にしていく表現を行い、改めて、我々の生きる『今』をどう表現できるかを試みている。主な展示に「極寒芸術祭Teshikaga」(北海道、2019-2025)、「ARTISTS'FAIR KYOTO 2025」京都新聞ビル(京都、2025)、「ソノ アイダ#TOKYO MIDTOWN AWARD 第4期」(東京、2,024)、「六甲ミーツ・アート芸術散歩 2023 beyond」六甲高山植物園(兵庫、2023)、「多層世界とリアリティのよりどころ」NTT インターコミュニケーション・センター [ICC](東京、2023)など。