/ Jialing Lee

展示会場
(06)KURA HOUSE
《Unseen spring》2025
《Unseen spring》2025
About Works
[キュラトリアル]

台湾出身のジャリン・リーは、キルティングした無地の綿生地を用いたソフトスカルプチャーを制作し、布の柔らかさや温度を“場所の物語を受けとめる容れ物”として可視化してきた。二階建ての本会場には、かつて質屋の蔵として使われていた本空間の歴史を踏まえ、花瓶や本、標本箱など、大切なものを保管するためのオブジェクトを象った作品が点在する。質屋として漂着した町の人々の思いや記憶が、時間が止まっているかのようなこの蔵でリーの作品を介して再び姿を現れることを待っているようである。
1階中央の新作《Unseen Spring》は噴水を模した布の彫刻で、記憶や想いが湧き出る場所として、本芸術祭のテーマ「織り目に流れるもの」と深く呼応する。布の柔らかなフォルムが“見えない水”の存在を暗示し、空間の内側に潜む時間の層を受けとめる器のように置かれている。2階には、標本のようにリーが拾ったサンゴや貝殻を型取りした金属のジュエリーのように布の標本箱や棚の上で大事にされている様子が想像できる。
富士吉田では、限られた自然水源を補うために人為的な水路整備が行われ、それが織物産業の発展を支えてきた。リーはこうした、水が人の手によって形づくられてきた歴史を参照しながら、噴水という象徴的な形式を通して、水が都市や生活にもたらしてきた力や記憶を想像するきっかけを作品に託している。

[アーティスト・ステートメント]

水は生命の起源であり、染色や織物に欠かせない基盤でもあります。富士吉田にはもともと自然の水源が乏しかったものの、人々が人工的に水路や灌漑を整備することで、次第に織物の町として発展していきました。ここでの水は、単なる自然の存在ではなく、人の手によって新たに形づくられた力でもあるのです。
アーティスト李佳玲は、キルティングした布で噴水の彫刻を構築し、「水の器」という隠喩を表現しました。噴水は、人間が水に抱く畏敬と支配の両義性を象徴し、生命の源であり、文明の象徴でもあります。この「見えない水」の背後において、作品は鑑賞者に水の姿を想像することを促します。それがどのように都市に力をもたらし、また目に見えぬ姿のまま、私たちの世界を形づくり続けているのかを。
Artist Profile
ジャリン・リー / Jialing Lee

ジャリン・リー / Jialing Lee

1990年台南生まれ。台湾出身のテキスタイルアーティストJia Ling Leeによるデザインスタジオ。工業デザインを学んだのち、2019年にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでテキスタイルの修士課程を修了。2020年に台湾へ帰国し、実験的な布素材の表現を探求するスタジオ「Pieces of Jade」を設立。
歴史的なモチーフや異文化の工芸、変化のプロセスなどに着想を得ながら、素材の記憶や文化的な断片を重ね合わせる手法で制作を行う。作品には、移動や郷愁、個人的な物語に根ざした想像上の風景が表現されている。キルティングや手縫い、布のレイヤリングを通して、装飾や感情の記憶、権力のかたちを再構築することを試みている。
これまでにロンドン、パリ、ミラノ、ニューヨーク、東京、ソウルなどで作品を発表。イギリスの『Embroidery』誌やイタリアの『Elle Decor』誌(表紙特集)などでも紹介されている。