/ Hirofumi Masuda

展示会場
(01)旧山叶
《白い傘と、白い鳥。》2025
《白い傘と、白い鳥。》2025
About Works
[キュラトリアル・コメント]

増田拓史は、広範な地域リサーチを起点に、個人史や言い伝え、歴史に残された複数の物語を一つの架空のストーリーとして編み直す手法で知られる作家である。個々の物語の交点から新たな解釈やイメージを立ち上げるその語り口は、理路整然とした因果関係よりも、言葉遊びや想像の跳躍によって言語化しにくい情景や心象をすくい取る。
本作は、甲斐絹の技術が評価され、軍事用落下傘(パラシュート)の絹生地の生産地として発展した富士吉田の絹生地産業が、戦後には衣服やファッションへと姿を変えながら受け継がれてきた近代史を軸とし、不老不死の薬を求め富士山を訪れ、養蚕や機織り技術を地域に伝えたとされる徐福が、死後に鶴へと化身してこの地に降り立ったという伝承と重ねられている。白い落下傘や白い鳥など“白色”を起点に物語は展開し、輸入技術や文化の象徴としての徐福像と、パラシュートで降り立つ身体の比喩が自然に接続されていく。
三つのスクリーンは連動と乖離を繰り返しながら重層的に意味を語り、展示空間にはパラグライダーのハーネスや衣類の型紙を思わせる仕掛け、戦時資料、軍楽を思わせる織機の駆動音が配置されている。また道路に面したウィンドウには落下傘を模した雨傘を用いたインスタレーションが展示されていて、観客はそれら展示要素に反応しつつ空間を回遊し、この土地の歴史が持つ多方向的な広がりを、理屈ではなく身体的な記憶として受け止めることが求められる。

[アーティスト・ステートメント]

二度目に富士吉田を訪れた際、この地では戦時中に落下傘用の絹生地が生産されていたという話を伺った。落下傘が絹で作られていたという事実は私にとって大きな驚きであり、同時に強い関心を呼び起こした。調べを進めるうちに、絹には「軽い」「堅牢である」「適度な空気透過性をもつ」という、落下傘にとって不可欠な性能が備わっていることがわかってきた。
産業技術センター富士技術支援センターに残された資料からは、富士吉田における陸軍向けの絹生地生産の動きは昭和9年頃に始まり、落下傘向けの絹生地の生産は昭和18年には行われていたことが読み解ける。甲斐絹を基盤として培われた技術力が国(軍)に評価されての製造依頼であったのだろうか。
かつて甲斐絹や洋傘地で名を馳せたこの街では、美しく、嗜好性の高い布を織る技が受け継がれてきた。特にその同じ場所で、戦時中には「命を守るための布」が織られていたのである。
本来、衣服とは人が身体を守るために纏うものである。嗜好や権威を象徴する華やかな織物を生み出してきた織機が、広い意味での“防御”へと役割を移したことは、一種の原点回帰のようにも思えた。終戦とともに役割を終えた落下傘やその生地が、生活を立て直すための日用品として再利用された記録や証言にも触れた。また、落下傘という形そのものも時代の中で変容し、現代では異なる目的をもって様々な場面で活用されている点も興味を引いた。
本作では、現代の機場で動く織機の光景、当時を知る人々への聞き取り、関連資料のリサーチ、そして洋傘と落下傘を重ね合わせた表現をもとに、映像を小説的に構成した。映像には語りを用いず、字幕のみで進行する。字幕を読み進める行為は、鑑賞者自身の記憶や経験を呼び起こし、映像を補完しながら受け止める余白を生む。そのラチチュードの広さを大切にした。
道路沿いに設置したインスタレーションでは、ライン生産された傘を用い、落下傘が展開し、地上へと降り立つまでの瞬間をショーウィンドウのように構成した。戦時中に落下傘を織っていた人々も、いつか再び華やかな布を織れる日を願っていたのかもしれない。
現代の織機は大小さまざまな部品が連動し、ひとつが欠けるだけで綺麗な製品はできない。その姿は、小さな要素=個々人が集まってひとつの社会を形づくる様にも見える。また、目的のためには止まることのできなかった時代への、かすかな皮肉のようにも感じられた。
Artist Profile
増田 拓史 / Hirofumi Masuda

増田 拓史 / Hirofumi Masuda

1982年茨城県生まれ埼玉県育ち。2011年から宮城県に拠点を置く。特定のコミュニティや地域の日常生活をリサーチし、人々の記憶や体験にテーマをあてた作品を制作している。ここの作品のテーマに合わせたアウトプットを用いており、写真、映像、インスタレーションそして文章など、領域横断的に制作し、国内外の芸術祭や美術館などで発表を続けている。
主な展覧会:「River to River 川のほとりのアートフェス 2022」(2022年、群馬)、「浪漫台三線藝術季」(2019年、台湾)、「リボーン アートフェスティバル2017」(2017年、宮城県)、「CAFE in MITO R」(2015年、水戸芸術館、茨城)、「JUMP」(2015年、十和田市現代美術館、青森)など。

©Hiromi Furusato