小林万里子

/ Mariko Kobayashi

展示会場
月江寺池
足を汚し、世界を開く
Curator’s Text
出展作品タイトル:《足を汚し、世界を開く》

小林万里子の作品に使われるのは、コットンや麻、和紙、粘土など、自然物を加工して作られた多種多様な素材です。そこから様々な文脈や背景が産みだされ、地域性を持った異素材の組み合わせによって、生命の営みや自然への畏怖、人間と自然の関わりといった壮大な物語が構築されていきます。    
作品のイメージは、大きく広がった樹木あるいは葉脈のような形態で、多様で鮮やかな色彩に彩られています。小林自身の手仕事によって生じる強い身体性が作品の根幹を支えており、作品全体にみずみずしい生命力を宿しています。
作品は実際の場所からインスピレーションを得て制作され、自然環境やそこで生きる動植物への思慮深い洞察から始まっています。オーストラリアの山とそこで繰り返される生態系のサイクルをモチーフにした作品《熱と水》では、生物が生きるうえで重要な熱と水という対照的なふたつのエレメントについての考察が土台になっており、作品にはオーストラリアの灼熱の乾燥地帯で生きる動物たちの姿が描かれています。
今回の作品は、同じように葉脈を中心的なモチーフにしていますが、その下には、胎児のように丸く横たわる白い馬が寝ています。馬はこのエリアでは重要な動物でした。近くの小室浅間神社にはいまだに白い神馬が生きています。この作品では、原初的な生命を象徴する白馬と植物が共存し、互いに補完し合って成長する姿を、極めて立体的な刺繍とテキスタイルの積み重ねで描き上げています。
また設置された月江寺は、この地域で有名な仏教寺院です。この寺院の庭に所在する神秘的な池の向こう岸に作品を展示することで、背景となる森、木々、深い闇、そして水の反映とそこに映る作品の姿が、特別な物語を形作ります。それは自然の抱える神秘、生命の力、歴史、文化、と言ったものと深く繋がっているでしょう。
小林は織りや染め、刺繍といったテキスタイルの技法を駆使して、自然のなかで起こる「生命の循環」を表現することに力を注いでいます。

ゲストキュレーター:沓名美和
Artist Profile
小林万里子 / Mariko Kobayashi

小林万里子 / Mariko Kobayashi

1987年大阪生まれ。織る、染める、編む、刺す、といったテキスタイル技法を用い多様な素材を組み合わせていく方法で、世界に存在する様々な結びつきを表現する。人と動物を分ける 境界線としての肉体が土へと還る長い時間や、死してから他の生き物として命が再生する道 のりを描くといったように、我々が「人間」として生きる時間を繙きながら制作を行う。重層的に織りなされる色や形によって現れる混沌のイメージの中から、生命の本質的な姿を描き出すことを試みている。近年の主な展覧会に2021年「Reborn-Art Festival 2021-22」(宮城県石巻市街地、牡鹿半島、女川駅周辺)、2021年個展「オーバーストーリー」(KOTARO NUKAGA/東京)、2020年個展「背負うだけなら太陽だけでいい」by KOTARO NUKAGA(CADAN/東京)などがある。2019年に「ONE ART AWARD」(台湾)で最優秀賞を受賞した。