FUJI TEXTILE WEEK のひとつの特徴は、地場産業のテキスタイル産業を「産地展」として多様な角度から検証しつつ、「アート展」においてはその創造性をアート作品に見いだし、そこに新たなテキスタイル産出の発展の可能性を期待するというところにある。それはテキスタイルの生産過程、色や形、デザインと用途、素材の多様性などから検討するだけでなく、アートの持つ隠喩や表象としての詩的・美的表現言語を用いてテキスタイルについて再考し、そこに新たな創造の契機を見ようという試みでもあるだろう。本年は、テキスタイルの原材料である糸に注目し、「糸への回帰」というテーマを掲げている。それはテキスタイルの材料である糸が、どこでどのように作られ、それが環境にどのような負荷を掛け、また社会にどのようなインパクトを与えているのか、あらためて見つめ直す時代だからでもある。 そこで「アート展」もできるだけ糸を想起させる作品やプロジェクトを紹介する。その表現形態は、刺繍からファッションまで幅広く、また街中の閉まっていた商店での展示をそのまま使いインスタレーション作品としたものも登場している。本展は使用されなくなった町中の店舗や工場の廃屋などを展示会場にしているのが特徴の一つだが、その結果ここにしかない独自の空間にそれぞれの作品が展示されることで、サイトスペシフィックな対話が生まれていることも鑑賞者にとっては魅力のひとつである。富士山麓の織物山地、富士吉田という街。それを取り巻く環境と、アーティスト達の自由に飛翔する創造性の発露を楽しんでいただきたい。
アート展「Back to Thread」ディレクター:南條史生